国府台から矢切に掛けての文学的浪漫と 日本人のこころ…
里見公園下の道標
松戸街道沿い一帯に広がる情景には
何故か 自らの感性ごと
引き込まれてしまう様な 妙な魅力を感じる
私にとっては そんな 表現に難い魅力に溢れ
た土地柄だった様に想う
視覚的には勿論のこと
散文から飛び出して来たかの様な
何か目には見え無いものへの焦がれなのか
私の中の心情に於いては 何時もそうだった
市川市街から なだらかな勾配を登り
国府台と上矢切 中矢切周辺を 散策する
その変化に富んだ丘陵地を満喫しながら
それらを 主なモチーフとして見たときに
遠くまで広がる 見晴らしの良さが醸し出す
彩の寂し気な 儚き情景や郷愁…
向こう側が見えそうで見えないほどに
遠く広がる畑 それに原っぱ…
ミレーの晩鐘で著名な「アンジェラスの鐘」
の如き 人の心に訴える様な 遥かな哀愁さえ漂う
手の届きそうな 小高い雑木林などは 最早
言うに及ばず
里見公園下の江戸川沿い それに
独特な雰囲気の河岸道
憂いを帯びた 対岸の遠い眺望や静けさ
都市部近郊の生活圏と 周りの自然との
入り交じる融合美が
その辺りに有りそうで おいそれとは出逢え無い
何にも例え難い 魅力に溢れている…
矢切の畑にて
この辺り一帯の情景に 更に一歩踏み込んで
想いを馳せれば
芸術的 且つ文学的な趣が 如何にしても
自らの感性を 強く刺激してしまい
然も 止むことは無い…
下矢切まで 範囲を広げて見たときに
日本人の切なる心情 と言うものについて
風物詩 そして空気感は勿論のこと
かつて 若き私が見ていた その情景を
出来るだけ 全体的に捉えながらも
細かで情緒的な部分をも 織り交ぜながら
味わおうとしたときに
大正浪漫以前の 私小説の一場面までをも
想像するに 難く無い…
明治の終わり
雑誌「ホトトギス」に発表された
あの染み渡る様な 甘ずっぱい様な
何とも言えない儚さが
日本人の優しさと もののあはれを呼び起こす
更には 自然の中の優し気なもの達からの
日本人の真心を綴ったメッセージともなる
そして その記憶は しばし 消えることが無い
野菊の墓 風景
私が 若かりし頃 上京し
そこから松戸市に向かい
上矢切 中矢切 下矢切と続くこの辺り一帯は
全体を称して 矢切と言うのだが
人々の生活圏の直ぐ側に位置していながら
自然の織り成す様々な造形や変化が多様に
存在する
元来の地形が織り成す綾 なのだろうか
嫌が上にも 想像力を掻き立てられる…
広がりのある江戸川には 桟橋があり
どこまでも浪漫チックな郷愁に 誘われる
延々と続く様な 遥かな河岸
気が付けば 向かいの東京が ひどく遠い
国府台には色々な学校があり
若者も多かった
南総里見氏所縁の 里見公園があり
老若男女が気軽に 足を運んだ
わざわざ出掛けても そこに価値を見出す人々も
多かった
そんな中 私は公園のすぐ近くに
住んでいたことも手伝い
人が少ない時などは 思い付いたら直ぐに
何時でも行くことが出来たし また好んで行った
在り来たりな言い方だが 木々が多く
そこいら中 緑一色
広葉樹が多いので 四季の移ろいも 趣深く味わ
うことが出来た
矢切方面にも時折 足を運ぶ…
明治 大正 昭和の初めの雰囲気を
彷彿させる 様々な意味に於いての彩を
味わいながら…
兎に角 余韻に浸った
当時はそれで 終わり
それが 全てだった…
矢切の渡し 渡し場付近
昨年 ひょんなことで 機会があり
この辺りを 尋ね歩くことが出来た
年甲斐も無く 嬉しくて胸が高鳴った
しかし それと同時に
何とも切なく 遣る瀬無い郷愁に
襲われたことは 紛れも無い事実である
目の前の情景がそうさせるのか
いや違う それだけではあるまい…
あの時からの 時空を超えた
私自身の想いが そうさせたのだと想う
矢切には当時 結核患者さんの為の
療養施設があり 今想えば…
空気が綺麗で 患者さんの心を癒せる様な
景色と雰囲気
それに「人を癒すのに相応しい気」が多分に
あったのだろう
そう 想える…
当時を 世相で語るとすれば
ちょうど売れ始まった時期で ラジオでよく流
ていた
特に深夜などは その儚げな曲調が似合っていた
それらは まるで
勿論 当時は 今から四十年以上も前
そんな発想など ある筈もない…
本当に風情のあるところに
住まわせて貰っていたのだと 今更ながら
深き感慨に 浸らざるを得なかった…
国府台城跡の里見公園が
松戸寄りの 下矢切は…
於ける
政夫と民子の別れの舞台
矢張り この一帯は 文学所縁の土地柄なのであろうか
政夫と民子はここ 「矢切の渡し」で
今生の別れとなる…
あの夏目漱石が 絶賛したと言う
「野菊の墓」
左千夫にとっては
小説としての 処女作でもあった
何気に…
政夫と民子は 今は共に
幸せなのかも 知れない…
国府台と矢切 その文学的浪漫に見る
日本人のこころ より…