道北遥かなり 若き日の妻へ捧ぐ…
サロベツ原野大沼にて 美恵子
記事が 津軽海峡を渡ります
私は若い頃 真新しいものや自ら行かなければ
手の届かないものが 無性に好きでした
所謂 好奇心が人一倍旺盛ではなかったかと
想います
何につけても 実際に自分の目で直に見たい
と言う願望が強く
思い立ってから行動するまでに
何時も 大して時間は掛かりませんでした
北海道の地形や風物詩が織り成す
シベリアや東欧にも似て
哀愁を帯びた情景…
私にとって今感じるであろう以上に
それは
驚きとの出会いを予感させるには
十分なものでした
そして何と言ってもあの距離感が齎し出す
意表をつく程に遥か遠いところが
当時の自らの趣向からか
若さも手伝ってなのか
中々手が届きそうに無いものに焦がれ
そこに辿り着きたいと言う
切なる願望の対象ともなっておりました
若いと言うことは大概
未経験と経験の連続ですから
北海道探訪は私にとっての 恐らくは
未経験のひとつの象徴
だった様にも想います
五日から一週間ほどの道内移動の日程で
数多く訪れた
北海道の旅の中でも
今回は 初めて道北の地を訪れた時の想い出を
綴らせて頂きたいと想います
オロロンライン
この時はフェリーで仙台発 苫小牧に渡り
工場地帯の原野の中を直ぐに
道央自動車道に乗ったことを記憶しております
道央自動車道では
その眺望の良さが存外な驚きであり
高速道にも拘わらず 周りを一望することが
出来ました
そのことが 当時としては
大層不思議なことに想えたのですが
今 様々な高速道路を利用してみて
解ることですが
高い所から真っ直ぐに下る際に
前方の広がりが醸し出す
北海道特有の地形が
必然的に良好な見晴らしを
演出してくれたのかも知れない
と言うことです
恐らくは全体が広いので
勾配が緩やかとなり 高低差が
余り気にならなかったのでしょうか…
返って時間距離が短かいことの方が
気になったのと同時に
些か名残り惜しくも感じられ…
またそのことが
大層可笑しくもありました
当時の私にとって
道央自動車道での時空が それほど迄に
快適なものであったと言うことを
今更ながら
つくづくと想い出しております
札幌 美唄などを過ぎ…
そこからは一気に
当時の道央自動車道の終点を目指すの
ですが
この時は平成になる少し前のことで
旭川まで未だ 高速が通っていなかった様に
記憶しています
終点は確か 滝川だったと想います
高速を降り 留萌に向かいましたが
途中 北竜町のひまわり畑の丘が
悲しいほどに美しく
下知識の無いまま遭遇した分
余計に新鮮で
これからの道北の旅を予感させる
大いなる切っ掛けにもなりました
映画「ひまわり」を彷彿させるその情景は
哀しい中にも希望を象徴するかの様でもあり
今でも深く印象に残っております
北竜町 ひまわり畑の丘
留萌から道北までの距離は相当なものですが
予想だにしない道路のお陰で
一気に道北の地を目指すことが出来ました
返す返すも本当に懐かしい…
あの何百キロあるのかさえ分からず
信号とも ほぼ無縁のオロロンラインは
当時は風力発電のプロペラ風車など
当たり前でしょうが
何処にも有るはずも無く
高所に道幅のポイントを示す為の
矢印表示が ある位でした
遮るものが無いとは言え
有りの侭の自然の中は矢張り
爽快でもあり
自分がまるで風の様とは
正にあの時のことだったのか
などと 今更ながら
感慨深く想ってもおります
道北での一泊目は
ノシャップ岬に宿をとっておりました
ので
先ずは水族館を見た後に
気付けば防波堤の上は黒山の
人だかり
夕日を眺めるポイントだと
重々知ってはおりましたが
ここまで来て人間
考えることは皆同じ…
そんなこともあり
道北の夜長は何故かほっこりとする
趣深いものとなりました…
サロベツ原野
翌日はサロベツ原野にて
最果ての遥かなる感慨に暫し浸り
北緯四十五度の立て札には…
我が日本国内の意外にも遠い距離
と言うものを
しみじみと痛感させられました
もう三十年も前のことなので
それから後立ち寄ったところを断片的に
想い出の中…
色々と巡ってみました
そして サロベツ原野の地図を見ながら
ひっそりと静粛に包まれながらも
全てが大らかで開放的な大沼に
ついつい引き寄せられてしまったことを
いつの間に
想い出しておりました
沼とは何とも控えめな呼称で
実際には小さな湖です
水深の基準からか
沼の呼称になったのでしょう…
大沼の水面(みなも)に
まるで浮かんでいるかの様に
見えつつ
直ぐそこに佇む利尻富士
その余りにも美しく
飛び切り端正なその姿が
ここまで来れたと言う安堵感と共に
素敵な解放感をも
私たちに与えてくれました
その時の 未だ若かりし妻の
嬉しそうな表情が忘れ難く
ついこの間の様な気がして
仕方ありません
サロベツ原野 大沼
それから もうひとつの沼に行きました
確かメグマ沼と言う名だったと想います
緑豊かな程よい大きさの沼で
子供が生まれたなら
メグマ沼に連れて来たいと
彼女が話していたことを
ふと想い出した時に…
矢張り 月日の流れと言うものを
しみじみと感じてしまいます
稚内動物ふれあいランドにも訪れ
樺太犬 タロだったかジロの子孫
がいたことも 良く覚えておりました
道北の二泊目は稚内に宿泊
翌早朝に出発をし
オホーツク街道を一路
知床 紋別方面へ向けて下りました
見下ろせば海岸沿いに
遥か先まで道なりに見えるその様は
最早何に例えたら良いのやら…
それから大分走り
朝七時ちょっと前
街道沿いにクッチャロ湖の案内板
を見付けたので 寄り道…
情景が素晴らしいと言えば
それ迄でしょうが
湖畔の美しさが本当に意外で
この上質な画には些か驚かされました
ひっそりと佇む
その静けさは まるで芸術の様
道北の旅からの
最後の贈り物の様で…
未知だったものとの出逢い
そして心地良い余韻からなのか
後ろ髪を引かれながらも
何とも嬉しい気分になれたことが
懐かしく想い出されます
クッチャロ湖
私にとっては三度目の
北海道の旅 途上…
初の遥かなる道北の旅情は
ここに終わりを告げることとなります
しかし この旅は未だ道半ば…
ここから紋別
レイクサロマへ そして知床へ
その後 誰もが目指す
著名な道東へと 向かいます…
初めて道北の地を訪れたときの感慨を
ひとつひとつ 想い出してみました
存外心に残り そして紡ぐべく記憶とは 矢張り
悲しいほどに心震わす出逢い
そこから生まれる魂の浪漫ではなかったかと
想っております…
美瑛の丘と若き妻
道北 遥かなり…