杖突峠の幻想に 卯月の息吹を見る…
平成二十九年 四月 四日…
伊那谷は今朝も
清涼なる空気に包まれる
そして何処か
憂いを帯び 凜とした天竜川は
爽やかで優しげな
朝の佇まいを奏でている
遠く駒ヶ根の方を見れば
木曽の山々が
中央アルプスと言う敬称に相応しく
絶唱にも似た激しさと
凛々しさとを以って
峰々に焦がれる人々の情念を
捉えて離さない
また左方に目線を移せば
遠く赤石の山々が
まるで桁の違う摩天楼の様な姿で以って
木曽の峰々と共に
人間界の遥か頭上での会話を
悠々と奏でている様にも想えて来る
伊那に一夜を過ごし
然も早起きをした余韻が
様々な形で現実に
私を癒してくれる この瞬間
万物に対する大いなる感謝の念を
どうして 抱かずにいられようか…
今年は伊那谷全体は勿論のこと
開花が未だ先の様だ
自然の在り方そのものが
生き物であるならば
所詮は いた仕方の無いこと…
満開時の高遠の桜と仙丈ケ岳
何気に…
国道152号を茅野方面へと向かう
思い付きで訪ねた路ではあったが
ここにまた一つ…
圧倒的な本当の日本の風景が
目の前に 広がる
この辺りの道路は
機能性が すこぶる良く
安全な広さを確保してある上
然も走り易い
お見掛けするところ
必要以上の乱開発は為されていない様で
何でもかんでも
土木工事に結び付けている風も
無さそうである
先人たちが紡いで来たであろう
昔からの風物詩が
其処彼処に咲き乱れる
長野 伊那谷 高遠の里
それらは 古よりの本当の日本…
装いは 深く私の心に残るものであった
高さが増すにつれて
木々に積もる春雪たちが
真綿の様に 上から散り落ちて来る
然もその様が珍しく
また 風流でもある
何やら 絶景が過(よ)ぎる…
杖突峠にて
そこは杖突峠 標高一阡二百数十米…
ノスタルジックで清潔感溢れる
二階のカフェに入り
早速 展望台に足を運ぶ
朝靄にほんのり包まれる
甲府盆地北部の幻想
その遥か向こうには
天上から眺める極楽浄土とは
まさに この様(さま)であろうか…
盆地との高低差五百米は
現実に 直ぐ足元に広がっている
それは恰(あたか)も
自分が五百米上空に浮かんでいるかの様な
何とも不思議な光景に包まれる瞬間
でもあった
その表現以外 私には…
目の前の情景に
どんなに心焦がそうとも
適当な言葉を見付けることは 出来ない
あと 十日も過ぎたならば
遅まきながら…
伊那谷も甲斐の郷も
艶やかであり 華やかな
そして気が付けば 次の瞬間には
淡く儚げであろう
日本人の こころの花々…
さくらの彩で 満たされることだろう…
蓼科山と美ヶ原